EdTechWomen – Tokyo (ETW) はEdTech領域で働く女性のリーダーシップ支援をするプロフェッショナルネットワークです。今回はPostdoctoral Associate (博士研究員)としてMITメディアラボでオンライン教育やクリエイティブラーニングの研究をされている村井 裕実子さんのインサイトを紹介します。

MITメディアラボとは、米国マサチューセッツ工科大学 (MIT) 内に設置された研究所で、主に表現、アート、教育、社会問題、コミュニケーションなど全26に渡るリサーチグループで構成され、幅広く次世代に向け利用されるデジタル技術の研究・開発をしています。伊藤穰一氏が所長を務め、学際的な研究 (Interdisciplinary)からさらに進化したコンセプト、Antidisciplinary (多分野研究領域に焦点を当て従来の専門分野に絞り研究する体質に対抗し、既成概念に捉われず世界中の多様な専門家たちや民間団体とコラボレーションをしながらクリエイティブなアイディアを研究に取り入れるというコンセプト)など斬新な方法による世界でも稀な統合分野を開拓していることでも有名です。

今回、日米両方のコンテクストでオンライン教育、クリエイティブラーニングを研究されている裕実子さんにScratch (MIT開発の子ども向けプログラミング言語)やクリエイティブラーニングの評価基準を現在研究されている貴重なお話を聞きたいと思います。

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–  元々、教育テクノロジーに関心をもつきっかけとなった経緯を教えていただいてもよろしいですか? 

高校生の頃から、複数の人が集まってアカペラで音楽を作り出すヴォーカルパフォーマンスに夢中になり、活動を続けてきました。その中で、さまざまな異なる能力を持つ個人が、他人との協働を通して力を発揮していくプロセスに興味を持つもつようになりました。

その仕組みをもっと知りたいと思ったのが教育を研究するようになったきかっけです。はじめはテクノロジーにあまり関心がありませんでしたが、大学院で遠隔教育のプロジェクトに関わりながら、テクノロジーの人をつなげる可能性に希望を感じるようになり、今は研究テーマのひとつとして取り組んでいます。

 

–  現在裕実子さんが研究されているScratchは世界中の子どもたちが使用していますよね。Scratchでプログラミングを学んでいくメリットや魅力はどんなところがありますか?

Scratchは、子どもの創造的な学習をサポートするため、そのデザインのありとあらゆる部分に工夫が散りばめられています。例えば、カラフルで視覚的な見た目や、ブロックをクリックするだけですぐにそのブロックが何をするかがわかる、フィードバックの速さで、多くの人にとってなかなかハードルの高いプログラミングに臆せずトライすることができるようになっています。作った作品を、オンラインで世界中の他の子どもたちと共有し、応援しあったり、アドバイスし合ったり、また、リミックスというお互いの作品にさらに手を加えて作品を発展させていったりすることのできるオンラインコミュニティも大きな魅力です。多くの子どもたちが、このコミュニティの中で、新しい技を学んだり、新しいコラボレーション仲間を見つけたりしながら、少しずつ自信をつけ、成長する機会になっているのです。

–  日本の教育がScratchやクリティブラーニングから取り入れられる点はどんな点でしょう?

MITメディアラボのミッチェル・レズニック教授が提唱しているクリエイティブラーニングは、日本だけでなく世界中で行われてきた知識重視の教育に対して、さまざまな視座を提供してくれるアプローチだと思っています。

例えば、クリエイティブラーニングでは、失敗し、そこから学んで、やり直し、いじくり回しながら少しずつ理解を深めていくことが前提です。また、子どもたちが探求を通してどんどん自ら学習を深めていく点も、先生一人が子どもたちが知るべきことを教える学習とは異なります。

ここで大きな特徴となっているのが、先生の役割が、知識を提供する側から、知識を探求するプロセスをファシリテートする立場に変わっている点です。もちろん、これらが、今すぐ教育の現場で全面的に実践することは未だ現実的ではありませんが、私たちがクリエイティブラーニングから学べることはたくさんあるように思います。

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“Scratch”ワークショップにて(主催者撮影)

– “正解のない” クリエイティブラーニングとして、Scratchをはじめメイキング (工作など) やTinkering (問題解決力を養う様々な道具をいじくりまわすこと) など学習者が取り組んでいく上で、学習評価基準はどのようなものが求められますか?また研究していくでどのような課題がありますか?

まだ確実な答えのない、非常に難しいテーマだと思います。

ただ、知識を身につけることが中心だった今までの学習アプローチと比較して言えることは、事後評価だけではなく、成果物に至る過程を評価する必要があること、個人の活動でなくピア (子ども同士) で行われる活動の中で起こる学びも評価する必要があること、また、先生の一方的な基準だけでなく、子ども自身の興味や目的を配慮した基準も検討する必要があること、などが挙げられると思います。

私が今MITで関わっているプロジェクトのひとつBeyond Rubrics (メイキング教育の新しい評価ツール) では、まさにこの課題に取り組んでいます。

 

–  長野県の教育改革の取り組みとして長野県教育委員会、信州大学、そして地元のゲーム会社アソビズムさんと共同で取り組まれていると伺いましたが、具体的にどんな活動をされているのですか?またどのように進化していく構想をお持ちなのでしょうか?

長野県のあちこちから集まった14名の小・中学校の先生方と、なぜ今プログラミング教育が必要なのか、どうやってプログラミング教育を実践していくべきか、という問いを、クリエイティブラーニングというアプローチを学びながら共に考えていく4ヶ月のプログラムを行いました。先生方がクリエイティブラーニングの考え方を学びながら、さまざまなハンズオンのアクティビティとリフレクションを通して、実際にアクティビティをデザインし、試してみて、また考えてみる、という実践型の研修でした。第一回目を経て、これからさらに先生方の学びの輪を広げながら発展させていきたいと話しています。プログラムの様子や詳細などはこちらのウェブサイトをご覧ください。

 

–  Edtechや次世代教育の中で、女性はどのようにリーダーシップが発揮できるとお考えですか?

誰もが無意識のうちに持ってしまう偏見に意識的に目を向け、それをできるだけ取り除き、より多様な人材が活躍できる場をつくることではないかと思います。もちろん、女性でも女性でなくても行動すべきことではありますが、テクノロジーという従来男性的なものとされてきた分野で、今まで参加しづらかった人が参加しやすくするために、女性的な視点や経験が活かせる部分は多くあるように思います。たとえば、ワークショップをしても、ふと気づくと参加者が男の子ばかりになってしまうことがあります。そうならないように、女の子が安心して参加できるようなタイトルやテーマ設定を工夫することはとても大切です。そういうアイデアだしの場への女性の参加やリーダーシップはとても有力だと思います。現場だけでなく、これは職場や業界レベルでも同様にあてはまる重要な要素ではないかと思います。

 

–  最後に、ETW FBページをご覧になっている読者にメッセージをお願いします。

新しい学びのためのテクノロジーがどんどん登場してくる、とてもエキサイティングな時代だと思います。ただ、それを生み出したり、活用していく私たちは、そのテクノロジーの表面的な魅力だけを語るのではなく、そのテクノロジーが私たちのどこをどのように支えてくれているのか、それによって私たちの学びがどう変化していくのか、慎重に考えて選択をしていく必要があります。また、誰もが慎重な選択をしてテクノロジーを活用していけるにように、周りをサポートをしていくこともとても大切です。私たちがひとりひとりがそのような意識を広げて、より多くの人が、自分に合った学びに向かえる環境を作っていけたらいいなと思います。

 

本日は、ありがとうございました。

<編集後記>

知識を身につけることが中心だった今までの学習アプローチから、これからは、よりクリエイティブに自ら考えを組み立て、試行錯誤を繰り返しながら問題解決の案を探っていくようなアプローチへと変化しています。Scratchを通して、子どもたちはモノづくりの没頭体験を通してこのような学習アプローチを繰り返し自信がつく機会になっていると伺いました。

一方、実際にこの体験を子どもたちにとって学びの糧にしていけるかは、教育者の力量に問われていることも垣間見れます。

クリエイティブな学びを、評価する、という一見相反するコンセプトに聞こえますが、これまでの事後評価(テストなど)だけではなく、成果物を創る過程を評価するものへとシフトしていく取り組みは今後の教育システムにおいて非常に重要な役割を担っているいるでしょう。

裕実子さんが課題として認識している、評価の中に、ピア学習の活動や子ども自信の興味や目的を配慮した基準を今後どのように取り入れていくのか、研究者と教育者が一体になって考えている渦中にあります。特に裕実子さんがサポートしている長野県の教育改革の取り組みは今後も注目していきたいです。

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